
会社員として働きながら、あるいは定年退職後に年金を受け取りながら農業を営んでいる方の中で、税金の手続きに悩まれている方は多いのではないでしょうか。
「農作物を直売所で少し販売したけれど、税務署に行く必要があるのだろうか」「どこから税金がかかるのか計算方法が分からない」と不安に感じることもあるかもしれません。
せっかく丹精込めて育てた野菜やお米を販売しても、後から税金の問題でトラブルになるのは避けたいところです。
この記事では、兼業農家の方が税金の手続きを省略できる具体的な条件や、よくある落とし穴について詳しく解説します。
最後までお読みいただくことで、ご自身が手続きをする必要があるのかどうかが明確になり、安心して農業と向き合うことができるようになります。
農業所得が年間20万円以下であれば所得税の手続きは原則いりません

兼業農家の方が直面する税金の疑問について、もっとも重要なポイントをお伝えします。
会社員やパートタイムなどで本業の給与があり、勤務先ですでに年末調整が済んでいる場合、農業による「所得」が年間20万円以下であれば、所得税の確定申告は原則として不要とされています。
また、公的年金を受給しているシニア世代の方についても、年金収入が年間400万円以下であり、かつ農業などの年金以外の所得が20万円以下であれば、同様に所得税の申告は不要です。
この「20万円ルール」があるおかげで、小規模に農業を楽しんでいる兼業農家の多くは、税務署での煩雑な手続きを免除されていると考えられます。
ただし、ここで注意しなければならないのは、このルールはあくまで「国の税金である所得税」に限った話であるということです。
お住まいの自治体に納める「住民税」については、所得が20万円以下であっても別途申告が必要になるケースが多いため、この違いをしっかりと理解しておくことが大切です。
手続きが免除される理由と知っておくべき注意点

判断基準は売上ではなく「所得」で計算されるからです
兼業農家の税金について考える際、もっとも誤解されやすいのが「収入(売上)」と「所得(利益)」の違いです。
税金の計算基準となるのは、農作物を販売して得た「収入」の金額そのものではありません。
その収入から、肥料代、農薬代、種苗代、農機具の燃料代などの「必要経費」を差し引いた残りの金額である「所得」で判定される仕組みになっています。
したがって、仮に農作物の売上が年間50万円あったとしても、経費として40万円かかっていれば、所得は10万円となります。
この場合、所得が20万円以下の基準を満たすため、所得税の確定申告は不要と判断されます。
日頃からレシートや領収書を保管し、経費を正確に把握しておくことが節税の第一歩となります。
本業の年末調整で基本的な税金の精算が完了しているためです
会社員や公務員として働いている方は、通常、勤務先が毎月の給与から所得税を天引きし、年末調整によって1年間の正確な税額を精算してくれています。
日本の税制では、このように年末調整が済んでいる給与所得者に対して、給与以外の所得が年間20万円以下であれば、少額な所得の申告を免除して事務負担を減らす制度が設けられています。
ただし、本業の給与収入が2,000万円を超える方や、2か所以上から給与をもらっていて年末調整されていない給与がある方などは、この免除規定の対象外となり、20万円以下でも申告が必要になる可能性があります。
年金受給者にも独自の負担軽減制度が存在します
定年退職後に農業を営んでいる方にも、手続きの負担を軽減するための制度が存在します。
それが「公的年金等に係る確定申告不要制度」と呼ばれるものです。
公的年金等の収入金額が年間400万円以下であり、かつその全部が源泉徴収の対象となっている場合、年金以外の所得(農業所得など)が年間20万円以下であれば、所得税の確定申告は不要とされています。
この制度により、年金を受け取りながら小規模な農園を営むシニア世代の方も、一定の条件を満たせば税務署に行く手間を省くことができます。
フリーランスや個人事業主の兼業農家は基準が異なります
本業が会社員ではなく、フリーランスや自営業(個人事業主)として働きながら農業も行っている場合は、給与所得者向けの「20万円ルール」は適用されません。
この場合、本業の事業所得と農業所得などのすべての所得を合算し、そこから基礎控除などの各種控除を差し引いて、税金が発生するかどうかを計算する必要があります。
2025年以降の制度変更などにより基礎控除の金額が見直される動きもあるため、個人事業主としての本業がある方は、少額の農業所得であっても合算して申告が必要になる可能性が高いと考えておきましょう。
住民税の申告は別扱いになるため注意が必要です
多くの方が落とし穴にはまってしまうのが、市区町村に納める「住民税」の扱いです。
ここまで解説してきた特例は、すべて国に納める「所得税」に関するルールです。
住民税には「所得20万円以下なら申告不要」という免除ルールが存在しません。
そのため、所得税の確定申告が不要であっても、農業所得が1円でも発生している場合は、原則としてお住まいの市区町村へ住民税の申告を行う必要があります。
これを怠ると、後から住民税の無申告や申告漏れを指摘される可能性があるため、お住まいの役所の税務担当窓口で確認することをおすすめします。
申告要否がわかる具体的な3つのケース

ケース1:売上50万円、経費45万円の会社員の場合
本業が会社員で年末調整が済んでおり、休日に野菜を育てて道の駅や直売所で販売しているとします。
年間の売上(収入)が50万円、肥料や農薬、出荷用の梱包資材などの経費が45万円かかった場合、計算式は以下のようになります。
収入50万円 - 経費45万円 = 所得5万円
このケースでは、農業所得が20万円以下に収まるため、税務署への所得税の確定申告は不要です。
ただし、お住まいの自治体に対しては、所得5万円として住民税の申告を行う必要があります。
ケース2:売上40万円、経費10万円の年金受給者の場合
年間250万円の公的年金を受け取っており、自宅の畑で果樹を栽培してインターネット等で販売しているとします。
年間の売上が40万円、経費が10万円かかった場合、計算式は以下のようになります。
収入40万円 - 経費10万円 = 所得30万円
年金収入自体は400万円以下ですが、年金以外の所得(農業所得)が20万円を超えてしまっています。
したがって、このケースでは原則として所得税の確定申告が必要となります。
ケース3:農業所得は赤字だが、あえて申告を行う場合
農業所得自体は20万円以下(またはマイナス)であっても、あえて確定申告を行うことで税制上のメリットが得られるケースがあります。
農業を事業として本格的に行っており、税務署に青色申告の承認を受けている場合がこれに該当します。
天候不良や農機具の購入などで経費が上回り、農業所得が「赤字」になった場合、確定申告を行うことで、その赤字を本業の給与所得などから差し引くこと(損益通算)が可能な場合があります。
これにより、本業で納めすぎた所得税が還付される(戻ってくる)可能性があり、翌年の住民税も安くなる効果が期待できます。
また、医療費控除やふるさと納税などの控除を受けたい場合も、所得金額にかかわらず確定申告を行う必要があります。
税金の手続きが免除される条件の総括

ここまで解説してきた重要なポイントを整理します。
兼業農家の方が税金の手続きを正しく判断するためには、ご自身の状況と以下の条件を照らし合わせることが大切です。
- 給与所得者の場合、勤務先で年末調整が済んでおり、かつ農業などの給与以外の所得合計が年間20万円以下であること。
- 年金受給者の場合、年金収入が400万円以下で、かつ農業などの年金以外の所得合計が年間20万円以下であること。
- 判定の基準は売上(収入)ではなく、必要経費を差し引いた後の「所得」で計算すること。
- 所得税の手続きが不要であっても、住民税の手続きは原則としてお住まいの市区町村へ行う必要があること。
- 赤字の場合でも、青色申告などで損益通算を行えば税金が安くなるメリットがあること。
これらの条件を正しく理解することで、追徴課税や無申告のペナルティといったリスクを回避し、安全に農業を続けることができます。
税金の計算やルールと聞くと、専門用語が多くて難しそうに感じるかもしれません。
しかし、まずはご自身が1年間でどれくらいの農作物を販売し、それにいくらの経費がかかったのかをシンプルに計算してみることから始まります。
日々の種苗代や肥料代の領収書、軽トラのガソリン代のレシートなどを月ごとに整理し、簡単なノートやエクセルに記録しておくことで、年末になって慌てずに正しい判断ができるようになります。
もし計算した結果、所得が20万円以下に収まっているのであれば、所得税の申告について過度に心配する必要はありません。
まずは今年1年間の売上と経費を振り返ることから始めて、これからも安心して充実した農業ライフを楽しんでください。