
「兼業農家」という言葉を耳にしたことはあるものの、具体的にどのような状態を指すのか疑問に思われる方は少なくありません。
近年、多様な働き方が推奨される中で、副業として農業を始めたいと考える方や、実家の農地を継ぎながら会社員を続ける方が増加しています。
しかし、いざ支援制度や補助金の申請、あるいは確定申告を行おうとした際、「自分は兼業農家に当てはまるのだろうか」「専業農家との違いは何だろうか」と迷うことがあると思われます。
インターネット上には様々な情報が溢れていますが、行政の手続きにおいては正確な基準を知っておくことが不可欠です。
この記事では、農林水産省などの公的な基準に基づき、兼業農家の定義や第1種・第2種の分類について、分かりやすく客観的に解説します。
この記事を最後までお読みいただくことで、ご自身の状況がどの分類に該当するのかが明確になり、今後の農業経営や各種手続きをスムーズに進めるための第一歩を踏み出せるようになります。
兼業農家は「世帯員に兼業従事者がいる農家」

兼業農家とは、端的に申し上げると、世帯員の中に農業以外の仕事で収入を得ている人が1人以上いる農家を指します。
これは農林水産省や農林業センサスにおける統計・行政上の正式な定義です。
一般的に「兼業農家」という言葉を聞くと、「農業をしている本人が、平日は会社員として働き、週末に農作業をしている状態」をイメージされることが多いかもしれません。
もちろんそのケースも含まれますが、公的な定義において最も重要なのは、世帯単位で判断されるという点です。
つまり、ご自身が農業だけに専念していたとしても、同居しているご家族の中に会社員やアルバイトなどで収入を得ている方がいれば、その世帯全体として「兼業農家」に分類されます。
この「世帯単位の定義」であるという前提を理解することが、兼業農家という概念を正確に把握するための鍵となります。
公的な定義が「世帯単位」である理由と分類の基準

なぜ本人の働き方だけでなく、世帯全体の状況が基準となっているのでしょうか。
その背景と、兼業農家の詳細な分類基準について解説します。
家計全体の収入構造を正確に把握するため
農業政策や補助金制度を設計・運用する際、行政は農家の経済的な実態を正確に把握する必要があります。
農業収入だけで生計を立てている世帯なのか、それとも農業以外の安定した収入基盤がある世帯なのかによって、必要とされる支援の形は異なります。
例えば、家族構成員が外に働きに出て定期的な現金収入を得ている場合、農業における天候不良などのリスクに対する備えがあると評価されることがあります。
そのため、「農業をしている本人が別の仕事をしているか」ではなく、「世帯の中に兼業で収入を得ている人がいるか」が、農家の実態を示す指標として採用されています。
世帯を一つの経済単位として捉えることで、日本の農業構造をより正確に統計化できると考えられています。
農業所得と兼業所得の割合による細分化
兼業農家は、世帯全体の収入の内訳によって、さらに「第1種兼業農家」と「第2種兼業農家」の2つに分類されます。
どちらの所得が主であるかが、この区分の決定要因となります。
第1種兼業農家の特徴
第1種兼業農家とは、世帯の収入のうち、農業所得が兼業所得よりも多い農家のことです。
これは、世帯の経済基盤が主に農業によって支えられており、農業以外の仕事は副次的な収入源となっている状態を指します。
専業農家に近い形態であり、農業に対する依存度が高い傾向にあります。
農業を事業の柱としつつ、農閑期に別の仕事をして収入を補っている場合などがこれに該当します。
第2種兼業農家の特徴
第2種兼業農家とは、世帯の収入のうち、兼業所得が農業所得よりも多い農家のことです。
会社員としての給与や、農業以外の事業収入などが家計の主体であり、農業は副業的な位置づけになっている状態です。
高度経済成長期以降、工業化や農業機械化が進んだことを背景に、農業にかける労働時間を減らしつつ他の産業で収入を得るスタイルが一般化し、この第2種兼業農家が大きく増加してきたとされています。
現在、兼業農家の大半はこの第2種兼業農家が占めていると言われています。
兼業農家の定義に当てはまる具体的な3つのケース

抽象的な定義だけではイメージしにくい部分もあるかもしれません。
そこで、兼業農家の定義に基づいた、よくある3つの具体的なケースを紹介します。
ご自身の状況がどのように分類されるか、照らし合わせながら確認してみてください。
本人が会社員として働きながら週末に農業を行う場合
サラリーマンとして平日は企業で働き、週末や長期休暇、または農繁期を利用して農業を行っているケースです。
教育機関向けの解説などでも、このような働き方が入門向けの説明としてよく紹介されています。
この場合、世帯主本人が農業以外の仕事で収入を得ているため、明確に兼業農家に該当します。
多くの場合、会社からの給与収入が農業からの所得を上回っているため、第2種兼業農家に分類されるのが一般的です。
近年、リモートワークの普及などに伴い、副業として農業を始める層に最も多く見られる形態と考えられます。
本人は農業専業だが、同居の家族が会社員の場合
世帯主である本人は農業のみに専念しているものの、同居している配偶者や子どもが会社員や公務員として働き、給与収入を得ているケースです。
本人は「自分は専業農家だ」と認識していることが多いかもしれません。
しかし、行政の定義はあくまで「世帯単位」で判断されるため、この世帯は統計上、兼業農家として扱われます。
もし家族の給与収入の合計が農業所得を上回っていれば第2種兼業農家となり、逆に農業所得の方が多ければ第1種兼業農家となります。
この「本人専業・家族兼業」のパターンは、定義の誤解が生じやすいポイントですので注意が必要です。
定年退職後に年金を受給しながら農業を営む場合
長年勤めた会社を定年退職し、その後は年金を受給しながら実家の農地を管理したり、新しく農業を始めたりするケースです。
この場合、年金も農業以外の収入(兼業所得)として計算に含まれます。
したがって、世帯の中に給与所得者がいなくても、年金収入があることで兼業農家として分類される可能性があります。
農業所得と年金収入の金額を比較し、農業所得が多ければ第1種、年金収入が多ければ第2種となります。
給与収入だけでなく、他の事業収入や年金なども兼業所得に含まれるという事実は、確定申告などの場面でも重要になってきます。
兼業農家の定義と分類についてのまとめ

ここまで解説してきた兼業農家の定義や分類について、重要なポイントを整理します。
以下の基準を押さえておくことで、様々な手続きをスムーズに進めることができます。
- 兼業農家とは、世帯員の中に農業以外の仕事で収入を得る人が1人以上いる農家を指す。
- 農業従事者個人の働き方ではなく、世帯全体の収入構成や就業状況によって判断される。
- 世帯の所得のうち、農業所得が兼業所得を上回る場合は「第1種兼業農家」に分類される。
- 世帯の所得のうち、兼業所得が農業所得を上回る場合は「第2種兼業農家」に分類される。
一般的なイメージである「本人が二足のわらじを履いている状態」に限定されず、家族の働き方や年金などの収入源も分類に大きく影響することがお分かりいただけたかと思います。
正しい定義を知ることは、ご自身の立ち位置を正確に把握することに繋がります。
兼業農家の公的な定義を深く理解することは、決して単なる知識にとどまりません。
各種補助金や支援制度の申請、適正な確定申告を行うための非常に重要な基礎となります。
特に近年は、多様な働き方を支援する観点から、兼業農家といったライフスタイルを対象とした独自の支援制度を整備する自治体も増えつつあります。
まずはご自身の世帯が第1種と第2種のどちらに該当するのか、毎年の収入状況をもとに確認してみてください。
そして、その分類に基づいて活用できる制度がないか、お住まいの地域の農政担当窓口などで情報収集をしてみることをお勧めします。
農業と他の仕事を両立させる働き方は、リスクを分散しながら持続可能な生活を築くための有効な手段として、これからの社会においてさらに重要な役割を担っていくと思われます。
この記事が、皆様の豊かな農業ライフを実現し、より安定した経営基盤を築くための第一歩となれば幸いです。