
会社員として働きながら農業も営む中で、今年の農業の収支がマイナスになってしまったと悩まれている方は多いと思われます。
天候不良や資材価格の高騰などにより、一生懸命育てた農作物からの収入よりも、かかった経費の方が大きくなってしまうことは珍しくありません。
「利益が出ていないのだから、手続きは何も不要だろう」と考えてしまう方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、給与などの他の収入がある場合、そのマイナスを申告することで、納めすぎた税金が戻ってくる可能性があります。
この記事では、なぜそのような仕組みになっているのか、そして具体的にどのような手続きや条件が必要になるのかを詳しく解説します。
最後までお読みいただくことで、現在の状況を有利に活かすための正しい知識と、次に行うべきステップが明確になるはずです。
兼業農家の赤字は確定申告で税金が還付される可能性があります

結論から申し上げますと、兼業農家の方で農業の収支が赤字になった場合、確定申告を行うことで所得税や住民税が減額され、税金が還付される可能性が高いです。
一般的に「利益が出たときにだけ税金を払うための手続き」と思われがちですが、それは一面に過ぎません。
国税庁の制度には、複数の収入源を持つ人が一部で損失を出した場合に、全体の所得を調整して正しい税額を計算し直す仕組みが用意されています。
したがって、赤字のときこそ自ら進んで申告をすることが、家計を守る上で非常に重要になると考えられます。
なぜ赤字でも確定申告をした方が有利なのか

利益が出ていないのになぜ税金が戻ってくるのか、その理由となる税務上の仕組みについて詳しく解説します。
主に「損益通算」という制度と、会社員特有の「20万円ルール」の正しい理解がポイントとなります。
損益通算で全体の所得を減らせる仕組み
日本の税制では、一定の条件を満たす所得で生じた赤字を、他の黒字の所得から差し引くことができる「損益通算」という制度があります。
国税庁の手引きによれば、損益通算が認められるのは主に「事業所得」「不動産所得」「譲渡所得」「山林所得」の4種類です。
兼業農家の方の農業による収入が「事業所得」として認められる場合、農業の赤字を会社員としての給与所得から差し引くことが可能です。
給与所得者は毎月の給与からあらかじめ所得税が天引き(源泉徴収)されています。
確定申告によって農業の赤字を差し引くと、年間の総所得金額が下がるため、本来納めるべき正しい税額も下がります。
その結果、すでに天引きされていた税金との差額が生じ、還付金として手元に戻ってくるという仕組みです。
会社員の「20万円ルール」に対する誤解
会社員の方の場合、「副業の所得が20万円以下なら確定申告は不要」というルールを見聞きしたことがあるかもしれません。
この「20万円ルール」は、給与以外の所得(収入から経費を引いた利益)の合計が20万円以下であれば、申告の「義務」がないという制度です。
農業の収支が赤字であれば、所得はゼロ以下(20万円以下)となるため、たしかに申告する義務はありません。
しかし、申告義務がないことと、申告してはいけないことは異なります。
赤字を給与所得と相殺(損益通算)して還付を受けたいのであれば、自ら確定申告を行う必要があります。
「義務がないから何もしない」という選択をすると、本来受け取れるはずの還付金を受け取れず、結果的に損をしてしまう可能性がある点に注意が必要です。
農業所得が事業所得として認められるかが鍵
損益通算を行う上で最も重要な前提条件は、農業での収入が「事業所得」に該当するかどうかです。
もし農業の規模が小さく、家庭菜園の延長のような副業的な性質が強い場合、税務署から「雑所得」と判定される可能性があります。
雑所得で生じた赤字は、原則として給与所得など他の所得と損益通算することができません。
事業所得として認められるためには、営利を目的としているか、反復継続して行っているか、客観的に見て事業としての実態があるかなどが総合的に判断されます。
一定の規模で農地を管理し、農協や直売所などに継続的に出荷して対価を得ている実態があれば、事業所得として申告できると考えられます。
赤字申告で得をする兼業農家の具体的な3つのケース

ここからは、実際にどのようなケースでメリットが得られるのか、3つの具体的な状況を挙げて解説します。
ご自身の状況と照らし合わせて参考にしてください。
給与所得が高く農業で一時的な赤字が出たケース
例えば、会社員としての給与収入が500万円あり、農業の方ではトラクターの修繕費や肥料代が重なり50万円の赤字が出たとします。
この場合、何もしなければ給与所得のみを基準に税金が計算され、年末調整で手続きが完結します。
しかし確定申告を行うことで、給与所得から農業の赤字50万円を差し引く(損益通算する)ことができます。
全体の課税対象となる所得が50万円分減少するため、その分にかかる所得税が還付され、さらに翌年の住民税も安くなります。
本業の収入が安定している方ほど、赤字を申告することによる税負担の軽減効果は大きくなると言えます。
漏れなく経費を計上して赤字を正確に算出するケース
農業は売上に対して様々な経費がかかる業種です。
種や苗、肥料、農薬といった直接的な資材費だけでなく、軽トラの燃料代、農機具の減価償却費、地代家賃、農業関係の通信費なども経費に含まれます。
赤字申告のメリットを最大限に活かすためには、事業に関連する支出を正確に経費として計上し、正しい赤字額を算出することが不可欠です。
特に、高額な農機具などを購入した場合は、その年に一括で経費にするのではなく、法定耐用年数に応じて分割して経費化する「減価償却」を行います。
これにより、数年間にわたって経費を計上できるため、毎年の所得を抑える効果が期待できます。
経費を曖昧にせず、領収書やレシートをきちんと保管して帳簿に記録しておくことが、節税に直結します。
青色申告を活用して赤字を翌年以降に繰り越すケース
事前に税務署へ申請を行い「青色申告」を選択している場合、さらなる優遇措置を受けられます。
その一つが「純損失の繰越控除」と呼ばれる制度です。
これは、給与所得などと損益通算を行ってもまだ引ききれない赤字が残った場合、その残った赤字を最長3年間にわたって翌年以降に繰り越すことができる仕組みです。
例えば、今年は大規模な設備投資をして大きな赤字が出たが、翌年以降は黒字が見込まれるという状況で非常に有効です。
翌年以降に農業で利益が出たとしても、繰り越しておいた過去の赤字と相殺できるため、将来にわたって税金を抑えることが可能になります。
青色申告は事前の承認と複式簿記による記帳などが必要ですが、赤字の年にも大きなメリットをもたらす制度です。
赤字の兼業農家は還付や節税のために確定申告を検討しましょう

ここまでの内容をまとめます。
兼業農家の方で農業の収支がマイナスになった場合、申告の義務がなかったとしても、確定申告を行うことで納めすぎた税金が戻る可能性があります。
これは「損益通算」という仕組みにより、農業の赤字を会社員としての給与所得と相殺できるためです。
また、青色申告を行っていれば、引ききれなかった赤字を翌年以降に繰り越すことも可能です。
申告義務がないからといって放置せず、事業所得として認められる実態があるのなら、経費を正確に計算して申告手続きを行うことが、経済的なメリットに繋がると考えられます。
正確な帳簿付けから第一歩を踏み出してみましょう
赤字のときに確定申告の手続きをするのは、少し面倒に感じられるかもしれません。
特に日中は会社員として働き、休日や早朝に農作業をされている方にとって、書類作成の時間を確保するのは大変なこととお察しします。
しかし、そのひと手間をかけることで、数万円から場合によってはそれ以上の税金が還付され、翌年の住民税負担も軽くなる可能性があります。
まずは、お手元にある肥料代や燃料代などの領収書を整理し、今年の収支がどのようになっているかを確認することから始めてみてください。
現在は国税庁のウェブサイトや市販の会計ソフトを使えば、比較的スムーズに書類を作成することが可能です。
ご自身が丹精込めて育てた農業の経営を、税務の面からも少しだけ見つめ直してみてはいかがでしょうか。